親族からの資金借り入れにおける注意点5つ

事業を始める際に必要不可欠なのは資金です。
一定の事業資金を確保していなければ、起業を進めるのは困難でしょう。
通常、事業資金は自己資金で用意しますが、不足する場合には銀行などの金融機関からの融資や親族(両親や祖父母、兄弟など)からの資金調達を検討することがあります。
今回は、親族からの借り入れが自己資金に該当するかどうか、また、その際の返済義務や注意点について解説します。
親族からの資金調達を考えている方は、ぜひ参考にしてください。

親族からの借り入れは自己資金に含まれるのか?

自己資金とは、起業のために自身で積み立てた資金を指します。
通常、事業資金は自己で準備するものですが、親族からの借り入れを活用するケースも見受けられます。
しかしながら、初めて起業する際、金融機関からの資金調達は容易ではありません。
実績がないため、事業がどれほどの利益を生むか、返済が確実かどうかを見極めにくいからです。
そのため、事業計画書の精査に加え、自己資金の割合が厳しく評価されます。
親族からの借り入れは、状況によっては自己資金としてみなされないことがあるため注意が必要です。
ただし、すべてのケースで自己資金として認められないわけではなく、一部の条件下では自己資金とみなされる場合もあります。

例えば、自己資金の割合が大きいことで金融機関からの融資額が増加することがあります。このようなケースでは、自己資金の一部に親族からの借り入れを組み入れることで、融資の総額が増えることもあります。
実際、自己資金100万円で融資が難しかったが、親族から200万円の資金を借りたことで融資を受けられたという事例もあります。

親族からの借り入れには返済義務がある

親族からの資金借り入れでは、金融機関のように正式な借用書を交わすことが少ないこともあります。
そのため、返済条件や期限などに関してトラブルに発展する場合もあるでしょう。
しかし、基本的に親族からの借り入れにも返済義務が生じ、金利も発生することを認識しておく必要があります。

借用書や金銭消費貸借契約書の作成

借用書は、通常借りる側が作成するものです。
親しい関係であっても金銭の貸し借りにおいてはトラブルを避けるために、借用書や金銭消費貸借契約書を作成することをお勧めします。
公正証書形式で作成することも可能であり、書類には借入金額、返済期限、各期日の返済額などを記載しておくことが大切です。

贈与とみなされるケース

贈与とは、無償で金銭を渡すことを指します。
親族からの借り入れにおいて、返済期日を設定していないと、それは借り入れではなく贈与とみなされ、贈与税が課される場合があります。
貸した側と借りた側双方が借用を認識していても、返済期日が定められていなければ贈与と見なされることがあるため注意が必要です。
金融機関からの融資の場合は必ず返済期日がありますが、親族間では返済がなされないケースがあり、贈与税が発生する可能性があることを理解しておきましょう。

資金調達として出資を選ぶ方法

借り入れではなく出資という形での資金調達も考えられます。
親族間での借り入れが、金融機関からの融資に影響を与える場合、出資が望ましい選択となることもあります。
ただし、出資を受ける場合は会社形態が株式会社となり、出資者の資本金が多いと株主総会での決定権に影響を及ぼすことがあります。
親族であっても議決権が相手に移ることでトラブルに発展する可能性があるため、出資を依頼する場合は議決権が過半数を超えないように調整することが必要です。

親族からの借り入れ事例

親族からの借り入れにはどのようなケースがあるのでしょうか。それぞれの状況により対策は異なります。

毎月元金のみ返済して利息は未払い

金融機関からの融資の場合、元金に加え利息の返済も求められます。
しかし、親族からの借り入れでは、例え元金のみを返済していても、利息分は贈与として認識されることがあるのです。
支払われていない利息分に対しては、贈与税が課税されることを覚えておきましょう。

ただし、課税されるのは贈与財産の合計が110万円を超えた場合のみです。
利息が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。

元金の返済が行われていないケース

親族から資金を借りたものの、定期的な返済がなされていない場合、その貸し借りは正式なものと認められないことがあります。
単に返済をせずに「出世払い」や「利益が出た時に返済する」と約束するだけの場合も含まれます。
このような場合は、実質的には贈与と見なされるため、元金全体に対して贈与税がかかることを理解しておくことが大切です。
贈与税を避けるためには、借用書に基づき、定期的に元金や利息の支払いを行う必要があります。

また、借り手と貸し手双方で専用の口座を設け、その口座を通して返済を行うことが重要です。契約書通りに返済することで、贈与とみなされるリスクを減らせます。

贈与税の仕組みについて

贈与税は、その年の1月1日から12月31日までの間に受け取った財産に基づいて計算されます。
その金額から基礎控除額の110万円を差し引き、残った部分に税率がかかります。
つまり、基礎控除額を超えた金額に対してのみ課税されるという仕組みです。

贈与税の税率は、基礎控除後の課税価格によって異なります。
「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の二つの計算方式があり、それぞれ税率が異なります。

「一般贈与財産用」の税率は以下の通りです:

  • 200万円以下の場合・・・10%
  • 300万円以下の場合・・・15%(控除額:10万円)
  • 400万円以下の場合・・・20%(控除額:25万円)
  • 600万円以下の場合・・・30%(控除額:65万円)
  • 1,000万円以下の場合・・・40%(控除額:125万円)
  • 1,500万円以下の場合・・・45%(控除額:175万円)
  • 3,000万円以下の場合・・・50%(控除額:250万円)
  • 3,000万円超の場合・・・55%(控除額:400万円)

「特例贈与財産用」の税率は以下の通りです:

  • 200万円以下の場合・・・10%
  • 400万円以下の場合・・・15%(控除額:10万円)
  • 600万円以下の場合・・・20%(控除額:30万円)
  • 1,000万円以下の場合・・・30%(控除額:90万円)
  • 1,500万円以下の場合・・・40%(控除額:190万円)
  • 3,000万円以下の場合・・・45%(控除額:265万円)
  • 4,500万円以下の場合・・・50%(控除額:415万円)
  • 4,500万円超の場合・・・55%(控除額:640万円)

親族から資金を借りる際の留意点

親族から事業資金を借りる際、注意すべき点がいくつかあります。

贈与税を防ぐ証拠を残す

贈与税を回避するためには、貸し借りが正式であることを示す証拠を残すことが求められます。
証拠としては「借用書を作成する」ことが有効です。借用書に基づいて、貸し借りの資金は口座を通してやり取りするのが基本です。
利息の支払いやその記録を残しておくことも、贈与と見なされるリスクを防ぐために有効です。

事業計画の説明

金融機関からの資金調達の際は、事業計画書を作成するのが一般的です。
親族からの借り入れでは事業計画書を作成しないケースも多いですが、資金を貸す側に対して「どれほどの資金をどのように使うのか」を説明する責任があると考えるべきです。
また、計画を説明することで、起業計画の見直しや具体性の向上にもつながります。

口約束を避ける

口約束は贈与と見なされる可能性があるため、慎重になるべきです。
親子間のように親しい関係であっても、お金を借りる際は必ず返済の義務を明確にしておきましょう。
口約束で済ませず、借用書などの書類を準備し、貸し借りの証拠をしっかりと残してください。

自己資金を用意することの重要性

起業するなら、まず自己資金を確保することが大切です。
自己資金が十分であれば、親族からの借り入れは必須ではありません。
親族に借りることを前提とせず、自己資金の確保を最優先にし、足りない場合にのみ親族からの借り入れを検討するようにしましょう。

出資の依頼は余裕のある人に

出資を依頼する際には、資金に余裕のある親族を選ぶようにしましょう。
事業が成功すれば出資者に利益が戻りますが、失敗した場合、出資金は戻らないリスクがあります。
そのため、出資する側も自分の経済状況を踏まえて出資するかを判断する必要があります。
起業者としても親族に過度な負担をかけないため、余裕のある人に依頼することが望ましいです。

まとめ

親族からの借り入れを含む資金調達の方法は多岐にわたります。
親族からの借り入れは、金融機関などからの融資よりも手軽ですが、贈与とみなされる可能性を考慮することが大切です。
贈与税が課される場合、基礎控除額110万円を超える部分に対して税が発生します。
借用書の作成、返済期日や利息の設定などを徹底し、正式な貸し借りであることを証明しておきましょう。

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